7/10 「オランダの地域生活支援型医療」講義のお知らせ

オランダの地域生活支援型精神科医療
~FACT、および人間性重視の地域治療コミュニティの取り組み〜

いま、世界では精神科医療は従来の病院での入院中心の医療から、患者さんが地域の生活を維持できるような治療システムに大きく変わりつつあります。アントロポゾフィー医学の観点から、養蜂、木工、農作業などが治療と運営として行われている、リベグッド病院 ( Lievegoed Kliniek )。オランダの在宅、地域を基盤とした治療システムと、人間的な方法で回復に取り組む地域治療コミュニティの実践から、精神科医療の多様性を探ります。

2016年7月10日(日)13:00~16:00 (12:30受付開始)
東邦大学 医学部第一講義室  http://www.med.toho-u.ac.jp/access/index.html
(大森キャンパス医学部エリア1号館内
http://www.med.toho-u.ac.jp/cam_life/mao_all.html )

講師:ケン・タナカ医師/精神科医。ドイツ生まれ。オランダで育ち、2005年アムステルダムVrije 大学医学部卒。その後、急性期の危機介入などの精神科医療、感情性障害、老年期、パーソナリティ障害、リエゾン、妊産婦や子どもの精神科治療にあたる。オランダ司法精神医療施設で依存症の治療、FACTにも関わっている。2013年よりリベグッド病院に勤務。
(FACT: Functional Assertive Community Treatment 多職種からなるアウトリーチ・チームにより精神障害者の地域での生活を支援する治療システム)

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定員:80名 
参加費:2.500円/学生1,500円
*講演は英語でおこなわれます(通訳付き)
申し込み/問合せ先:日本アントロポゾフィー医学の医師会事務局
6月6日受付開始
●お名前・連絡先・所属「7月10日参加希望」とご記入のうえ、メールでお申込みください。e-mail:  qqnf5rk50@jupiter.ocn.ne.jp  
●メールの無い方はFAXでお申し込みください。 Fax:045-592-0067 

主催:一般社団法人 日本アントロポゾフィー医学の医師会 http://j-paam.org
共催:教育・芸術・医療でつなぐ会

会場「東邦大学」へのアクセス:
京浜東北線 蒲田駅   東口2番バス乗り場より「大森駅」行きに乗車約10分。「東邦大学」下車徒歩2分
京浜東北線 大森駅   東口1番バス乗り場より「蒲田駅」行きに乗車約15分。「東邦大学」下車徒歩1分
京浜急行 大森町駅  下車徒歩10分

京浜急行 梅屋敷駅  下車徒歩8分

 

 <講師よりのメッセージ>

オランダのメンタルヘルスケア(Geestelijke Gezondheidszorg、 GGz)は改変の渦に巻き込まれています。厚生大臣が導入した緊縮政策により数々の施設が閉鎖され、病床が削減されています。入所の順番待ちも長期化し、ケアの質も低下する一方です。これらはすべて、しわ寄せとなり患者が犠牲になっています。導入された財政構造により、ヘルスケアは診断、いわば患者に押される「烙印」に左右される状況が生じています。GGzの抱える最も大きな盲点の一つが、このスティグマ問題です。スティグマ問題とは、恐怖感や嫌悪感を催す、ある一定の偏向した特徴や素行をもとに、一部の人々に否定的なレッテルが貼られ、非難・排除されるプロセスのことです。その特徴や素行が通常とは異なることの責任は、多かれ少なかれその一部の人々自身にあるとされます。

多くの病院は、このスティグマが如何に生じるかという問題に腰を据えて取り組めないままでいます。医療スタッフは疾病・障害モデルに沿って仕事をしています。つまり、患者には疾病・障害があり、そのために解決策を模索するという発想です。その中で患者は、自分のことを聞き入れてもらえない気持ち、診断という烙印を押されたような気持ちに襲われます。精神科医による検診の時間は限られており、他の医療スタッフも残業に追われていたり、予算削減の嵐の中で何とか自分の職を失わないで済んだ状況です。この他にも、患者が治療を受ける環境も重要な役割を果たします。通常の病院も楽しく居心地のよい環境作りを試みていますが、それは患者が本当に、自分は安全かつ歓迎されていると心の底から思える環境だと言えるのでしょうか?

リーフェグッド・クリニックの特徴は、ホリスティック医学に基づいたアプローチです。人間は弱点のほかに、長所や才能を持っています。時にそれは、うつや不安障害により裏に隠れてしまっています。この健康な面を引き出すことにより、その人にまた新たな力を与えることが可能なのです。患者は、安全で温かく、刺激に満ちた環境の中に導かれます。そして、そこでは生活リズム・構造が重視されます。私たちはそれを「治療活動グループ(therapeutische werkgemeenschap)」と呼んでいます。自らの才能を発揮しつつ周りの人々の才能に支えられていく方法は、障害が強調され治療を受けていく方法とは違った前進方法です。どちらの方法も可能ですが、私たちリーフェグッドは前者を選びます。患者は、医療スタッフが自分を何らかの形で助けてくれるだろうと期待して精神科病院の門をくぐります。私たちはそれを逆転させ、「あなたは私たちの治療活動グループの中で何かできることはありますか?」という問いかけから始めます。人がある共同体の中で何かの役に立てるということは、その人の長所が目につき、周りに認められるという大きな利点があるのです。私たちは自分たちを病院ではなく、治療活動グループと見なしています。医療スタッフや患者としてではなく、誰もが治療活動グループ参加者の一員と見なされます。精神科医も含め、皆が参加者なのです。平等さとオープン性を共通の目的とすることが意志力を培う重要な要素である、というのが私たちの信念です。治療活動グループ内で自分の居場所を見つけることにより、自信が芽生え、育っていくのです。