認定医制度

2020年より、日本でも国際的ガイドラインに則ったアントロポゾフィー医学認定医養成コースが始まります。以下に2018年にスイス・ドルナッハのゲーテアヌム精神科学自由大学医学部門の会議で決定された国際研修ガイドラインを掲載します。
PDFファイルはこちら→アントロポゾフィー医学認定医師養成ガイドライン

ゲーテアヌム精神科学自由大学医学部門 インターナショナル・コア・カリキュラム 〜アントロポゾフィー医学における医学生および医師養成のため〜 より

アントロポゾフィー医学における認定のための 医学研修ガイドライン

1. 序文

アントロポゾフィー医学は確立された科学的医学と自然科学の上に築かれる。アントロポゾフィー 医学は、 その方法論をゲーテ的現象学およびルドルフ・シュタイナーによって開発されたアントロポゾフィーのメ ソッドによって補強する。特にこれは人間の身体、心魂、精神の相互関係に応用される。このアプローチは 診断、治療、予防、公共衛生の分野に貢献するものである。根本目標は、とりわけ患者自身の活動と健康生 成論的ポテンシャルを刺激することによる患者の治癒、健康の保持、病気の予防である。人間は個人として も人類の一部としても持続的に進化する存在と理解される。アントロポゾフィー医学は 20 世紀の初頭に生 まれ、ルドルフ・シュタイナーとの協働において医師イタ・ヴェークマンによって開始され、臨床実践と科 学的研究を通して持続的に発展している。

2. アントロポゾフィー医学における医師研修

〈アントロポゾフィー医師の技能〉
アントロポゾフィー医学における研修を終えたのち、医師は以下の能力を身につけているべきである。

  • 対話に基づく医師と患者の関係を共感的に確立する。ここでは患者はその個別の社会環境における一人の個人として知覚される。
  • 診断と治療において最新のアントロポゾフィー医学の知識と実践を考慮に入れる。
  • 身体的、生命的、情動的、メンタルおよびスピリチュアルな次元 ( 以下、人間本質の四分節と呼ばれる )の分化された評価を行い、その際患者のバイオグラフィーを考慮に入れ、個性化された多次元的な診断に到達する。
  • これに基づき患者の治療的介入に対する個別のニーズを特定する。
  • これに基づき患者の人間本質の四分節および資源(リソース)を適切に考慮に入れた治療法をデザインする。
  • 診断および治療の意志決定において情報を与えられた患者の意図と選択を取り入れ、患者自身の能動性と自己治癒能力を弱める可能性のある全ての不要な処置や治療を回避する。
  • 治療計画において人間のスピリチュアルな次元を考慮に入れ、それが適切、可能また望まれるところではそれについて患者と話し合う。
  • 総合および専門医療において遭遇する最も一般的な疾患を、アントロポゾフィー医薬品と療法によって、もしくはそれらを含めて治療し、同僚、看護師、療法士との治療チームにおいて適切な意思伝達および 効果的な共同作業を行う。
  • 疾患の経過に寄り添い、それを評価し、そこに療法を適応させる。アントロポゾフィー医学療法の経過 を情動的、メンタルおよびスピリチュアルな側面を含め記録する。
  • 自らの行動を反省し、自分の失敗に向き合う。
  • 自然と宇宙、および重要なアントロポゾフィー医薬品の根本にある物質との結びつきを育てる。
  • 医学的 = スピリチュアルな進化の道を独立して探求する。

アントロポゾフィー医学の科学的基盤と研究方法を説明し、アントロポゾフィー医学文献を独立して検索する。

3. トレーニングの内容

1) アントロポゾフィー人間学

  • 人間本質の四分節。人間四分節の各分節の生涯にわたる発達。
  • 人間本質の機能的三分節および三分節と四分節の相互作用。
  • 人間の体質における両極性。 ・人間のスピリチュアルな次元

2) 自然、宇宙、人類

  • 鉱物 / 金属、植物、動物。
  • 認識論としてのゲーテ的観察法。
  • 四つの古典的元素 (”地”、”水”、”空気”、”熱”)
  • 三原理 (”塩”、”硫黄”、”水銀”)
  • 七つの生命プロセス
  • 宇宙、地球、人間の関係

3) 健康生成論と病因論

  • フィジカル、メンタル、スピリチュアルな健康
  • 中心的な病態生理学的プロセス
    − 急性および慢性的炎症 ; アレルギーと自己免疫疾患
    − 変性および腫瘍性疾患
    − 発達初期の障害と、障害とともに生きること
  • 中心的臓器と系についての拡張された、アントロポゾフィー的理解、たとえば − 心臓と循環器系
    − 上下気道
    − 胃腸管、肝胆道系
    − 泌尿生殖器系
    − 内分泌系
    − 神経感覚系
    − 免疫系
    − 筋骨格系 ( 脊柱、関節、筋、靭帯 )
    − コモンディジーズ ( よくある病気 ) の症例検討による治療原理 − 精神科のコモンディジーズ、特に不安症、睡眠障害、うつ病性障害

一つの重要な学習目標は、アントロポゾフィー医師は自分の国、および自分の専門分野において 最も発生頻度が高い医学的状態を適切なアントロポゾフィー医学のメソッドによって、あるいは それを含めて、治 療できるべきだということである。

4) アントロポゾフィー医学のメソッド

  • 広範な病歴考察、患者のバイオグラフィー発達を含む • 患者の四分節および七つの生命プロセスの状態評価
  • 患者の資源および治療的介入が必要な領域の特定
  • 適切な医薬品と治療法の特定
  • 個性化された統合的な療法の計画および実行
  • 治療法のフォローアップ、評価、修正
  • アントロポゾフィー医学の症例報告を執筆、発表する基本的能力

5) アントロポゾフィー医学における治療法

  • アントロポゾフィー医学の作用原理
  • アントロポゾフィー医学製剤および薬剤学的製造プロセスの基礎知識
  • 外用看護療法およびアントロポゾフィー理学療法
  • オイリュトミー療法や芸術療法などのアントロポゾフィー療法に関する知識と基礎経験 • 医師・患者のコ ミュニケーション

6) 社会的、倫理的、スピリチュアルな進化

  • 医学的 = スピリチュアルな進化におけるアントロポゾフィーの道 ( 基礎、訓練、瞑想 )
  • 医師・患者の関係 : 総合的観察、コミュニケーション、患者カウンセリング、患者の社会的背景を考慮に入れる
  • スピリチュアルで進化する存在としての人間理解に基づいた、患者および親族との意思決定の共有 • 専門的および職種横断的なチームワーク
  • 医療過誤との関わり
  • 時間管理
  • 医療実践の財政的側面

7) 研究と科学

  • アントロポゾフィー医学における科学的基盤と研究方法の知識 • アントロポゾフィー医学の基礎文献と取り組む能力
  • アントロポゾフィー医学文献を利用するための知識と能力

4. 学習目標

アントロポゾフィー医学の訓練を積んだ医師は、アントロポゾフィーによって拡張された通常医学に基づい て、患者を診療することができる。特に、彼 / 彼女は、医師・患者の信頼関係を確立し、アントロポゾフィー による問診、診察、診断において先進的な能力を示す。治療目標と個別の治療計画を立て、治療を実行し、 評価し——必要なときは——修正することができる。

5. 必要条件

必要とされる能力を身につけ、学習目標に到達するために、アントロポゾフィー医学におけるトレーニング は特定の要素から構成され、それらはポートフォリオに記録されねばならない。

▶ 受講時間(250 時間) : アントロポゾフィー医学コア・カリキュラムの枠内で、認可された講座やセミナー に参加し、修了証を受け取る。

▶ 自己学習(250 時間) : これは主にセミナーにおける受講時間の準備およびフォローアップに費やされる 時間、およびセミナーの内容と個人で取り組むこと、文献と取り組むこと、などである。

▶ メンターとの研修時間(250 時間) : これは受講者がすでに医師として医療を実践し、その際アントロポ ゾフィー医学を適用している ( 外来 / 入院患者 ) 時間のことである。メンターとの研修時間は次のように構成される。

• 200 時間の患者診療、これには準備、フォローアップ、研究その他が含まれ、その仕事はポートフォリオに記録されなければならない。

• 50 時間のメンターとの直接的コンタクト、その形式は以下の通り
− 個別のメンターとのコンタクト ( 直接的に会うこと、電話、メール )
− 外来 / 入院患者の症例についての議論 ( 医師間および職業横断的に )
− 医師の診療への立ち会い
− ケース・セミナー ( スーパーバイザーのもとでの小グループでの患者をめぐる症例検討 )

アントロポゾフィー認定医はメンターになることができる。メンターは 200 時間の患者診療および 50 時 間のコンタクト・タイムを、自分の署名によって証明する。時の経過の中で受講者は数名のメンターを選ぶ ことができる。

▶プロジェクト・ワーク (150 時間 ) : 1 〜 3 つの論文もしくはそれに相当する全体で 30,000 文字の論文。 このプロジェクトは出版物でもよい。内容はアントロポゾフィー医学と受講者の現在の研修内容に関連した もの。この論文は受講者が、独立してアントロポゾフィー医学の基礎的要素と取り組む能力があることを示す。

その内容の例としては :

  •  特異的な症例についての論述
  • ある疾患パターンの特徴づけ
  • ある特定の医薬品もしくは非薬物療法の特徴づけ この論文はカリキュラム内のプログラムの責任者に提出される。これがアントロポゾフィー医学の医師にな るための試験の一部となる。

▶ 3 つの症例報告 (100 時間 ) : いずれの症例も個別のものであるので、それぞれが全て記述される。3 つ の症例報告は、受講者がアントロポゾフィー医学の基礎を身につけており、独立してアントロポゾフィー医 学の意味における診断を行うことができ、治療を開発し、疾患の経過を評価する能力があることを示すもの でなければならない。以下の側面に関する情報を含んでいる必要がある。

  • 病歴
  • 現在の所見
  • 診断
  • アントロポゾフィー医学の意味におけるアントロポゾフィー = 人間学的観点
  • 四大元素、人間本質の四分節診断、機能的三分節その他を認知可能な程度まで示す ( 可能なら文献を参考にして )
  • 治療の必要性および治療法の発見 ( 治療法の選択理由および選択された医薬品のいくつかの側面の 記述 )( 可能なら文献を参考にして )
  • 治療と疾患の経過 ( 可能なら効果の評価とともに )
  • 考え得る予後
    従ってアントロポゾフィー医学における認定のためのトレーニング全体は、1000 時間 (1 時間 =45 分 ) を 必要とする。
    以下の図を参照。

1000 時間 (1時間=45 分 ) 大学卒業後のアントロポゾフィー医学におけるトレーニングに必要とされる時間総数

6. アントロポゾフィー医師認定試験

アントロポゾフィー医師認定の基本条件は、正規の医学教育を修了し医師資格を取得していること、病院も しくは診療所における少なくとも 2 年間の臨床経験があることである。
試験の所要時間は一般に 60 分であり、以下をカバーする。
1) その時点までに達成されたこと、とりわけプロジェクト・ワークの確認と評価
2) 独立して、患者を診療し、基礎的概念を用いて活動し、アントロポゾフィー医学の可能性と限界に批判的に取り組む能力を示すこと
3) ポートフォリオに含まれる3つの症例報告の少なくとも 1 症例のプレゼンテーション 試験官は少なくとも 2 名の経験あるアントロポゾフィー認定医が務める。これらの試験官は適正な国別の 医師会もしくは医学セクション内の関連委員会がこの試験を行うために委託する。2 名の医師の一人はメン ター / メンターの一人であってもよい。