(以下の固定ページより転載)
http://j-paam.org/about-us/our_stance
日本アントロポゾフィー医学の医師会では、これまでのアントロポゾフィー医学の歴史や日本でのアントロポゾフィー医学の歩みを踏まえ、当医師会としての基本姿勢について数年間にわたり話し合いを行ってきました。理事会での話し合いと承認を経て、以下に私たちの基本姿勢を示します。
私たちの基本姿勢-日本アントロポゾフィー医学の医師会として
2023年8月19日
はじめに-私たちの基本姿勢について
私たちは医師として、これまでそれぞれの専門分野において知識、技術および経験を積んできました。その過程で、現代医学の恩恵を知り最大限に活かす努力をしつつも、病める人々に接する中で、そのアプローチだけでは不足している面もあることを、各自の臨床の中で経験してきました。それを補うために他の医療従事者と協働し、病めるその人個人の状態や価値観に合わせた、さらなる身体的・精神的・社会的ケアを、現代医学的診断・治療に加えて提供することが必要であると考えています。
1.アントロポゾフィー医学について
アントロポゾフィー医学とは、1920年代の始めに、哲学者/思想家のルドルフ・シュタイナーの助言をもとに、イタ・ヴェークマンら数人の医師達によって始められた医学です。その後も主にヨーロッパで、多くの医師・研究者らによってさらに研究と実践が付け加えられ、現在に至るまで発展を続けています。
ルドルフ・シュタイナーは自然や人間について物質的に捉えるだけでなく精神的な側面からも捉えた研究を行い、多くの講演や書籍を遺していますが、医師に対しては、「通常の自然科学的思考ができる」ということを条件として求めています。したがって現在に至るまで、アントロポゾフィー医学を学び実践するのは「国家資格を持ち、現代医学の場での正規の教育と訓練を経た医師」が原則となっています。その上で、スイス・ドルナッハにあるゲーテアヌム精神科学自由大学の医学部門の教育基準のもと、アントロポゾフィー医学の教育とトレーニングを行った医師が、アントロポゾフィー医学の実践を行うことが原則です。
アントロポゾフィー医学の治療には医師が処方する薬剤に加え、看護、芸術療法、オイリュトミー療法などがあり、それぞれ国家資格や認定を受けるための適切な教育とトレーニングを受けた従事者が実践しています。そのため、アントロポゾフィー医学では、可能な限り多職種間の協働が行われます。看護師、薬剤師や芸術療法士など各分野の医療従事者も、上述の医学部門の認める教育プログラムのもと、教育とトレーニング、一定の基準を満たした場合に資格認定を受けています。それぞれの分野で医療従事者は専門分野の境界を越え、共に協力して研究と臨床での実践を行っています。※
アントロポゾフィー医学の原則は、「現代医学の『拡張』」です。現代医学は日進月歩の発展を続けており、医療者側にも受療者側にも多大な恩恵をもたらしました。その利益については言うまでもありませんが、一方で、がんや精神疾患の治療、多剤耐性菌の問題、近年では新型コロナウィルスのパンデミックなど、簡単には解決できない課題にも直面しています。
現代医学的には限界があって対応の難しい問題に関しても、医師は問題を放棄することなく、向き合い続けることを求められます。その場合に、現代医学的方法を十分に活用した上で、さらに補完的な医療的手段の可能性について検討することは有用です。
補完的手段に関しても、常に検証されることが求められます。前述したようにアントロポゾフィー医学の治療には薬剤に加え、看護、芸術療法、オイリュトミー療法などがあり、これらの治療法は約100年前から臨床的に実践されていますが、必ずしも現代の科学的手法による検証をなされているわけではありません。現在、アントロポゾフィー医学はゲーテアヌム精神科学自由大学の医学部門の主導のもとに、世界各地の医療機関で、これらの治療法の有効性についての科学的検証を継続しています。
私たちは、何らかの医学体系を絶対視し他を排除する、ということはありません。アントロポゾフィー医学では、患者さんの精神的な自由が何よりも尊重されるため、特定の価値観や世界観を信奉するよう求めるということはありません。私たちは、いつでもその患者さんの個人的な価値観を尊重し、科学者である医師としての見解と経験を加えて、その人に最適な治療を目指します。
このように、アントロポゾフィー医学は、現代医学の利点を最大限に活用しつつ、アントロポゾフィーの観点から得られた新たな認識を付け加えることによって、現代医学を『拡張』します。
2.日本アントロポゾフィー医学の医師会について
2005年5月に、アントロポゾフィー医学を学ぼうとする日本人医師たちの任意団体である日本アントロポゾフィー医学のための医師会として創始され、2016年に一般社団法人日本アントロポゾフィー医学の医師会が設立されました。
当医師会は、アントロポゾフィーの原則に基づき、ゲーテアヌム精神科学自由大学の医学部門との協調体制のもと、アントロポゾフィー医学に関する知識と技能を深めると同時にその研究活動を行い、日本におけるアントロポゾフィー医療の発展と普及を図ること、また医学部門の協力のもと日本におけるアントロポゾフィー医学の医師の養成を担うことを目的としています。
アントロポゾフィー医学は日本においても、会員医師たちによって実践されています。しかし日本は、アントロポゾフィー医学の歴史が長いヨーロッパとは医療政策や保険制度だけでなく文化や価値観も異なるため、日本の状況に合わせて適用することが必要です。現代医学の診断・治療を最大限に生かし、医師としての責任と判断に基づいて、医師法など諸法律を遵守しつつ、患者さんの希望と了解のもとに行われます。
3.宗教観・死生観について
アントロポゾフィー医学はルドルフ・シュタイナーの提唱した哲学や人間観に基づいていますが、特定の宗教や信仰を持つよう求めることはなく、すべての人の宗教や信仰に関する自由考えを尊重します。
アントロポゾフィー医学を実践しようとする医師は、アントロポゾフィー的な生と死の概念についてについて学びますが、特定の死生観を信奉するように求められることありません。患者さんがアントロポゾフィー医学に基づくケアを受ける場合においても、私たちは患者さんの精神的・信教的自由を最大限に尊重します。
4.予防接種について
アントロポゾフィー医学では、予防接種を無条件に否定することはありません。
私たちは、医師が医学的な立場から治療または助言したりすることに加えて、患者さん自身が、自分の健康や病気に関して主体的にかかわることがその人の健康の維持、さらに病気の治療の過程で重要なことだと考えています。
その意味で、予防接種に関しては、その期待される効果と起こりえる副作用等に関する情報をきちんと理解したうえで受けることが重要だと考えています。その際に、予防接種を受ける本人や家族やその属する集団の社会的、身体的状態だけではなく、その国や地域の特性や実情をも考慮することは、現代医学でも当然のことですが、アントロポゾフィー医学では、本人や本人を支える周囲の人たちと医師、治療者との対話の上、意識的、主体的な選択をできるようにすることを目指しています。それによって、本当に必要な方が、納得した上で予防接種を受けることができることが理想的であると考えます。
※2023年4月に、世界保健機関(WHO : World Health Organization)より、アントロポゾフィー医学に関するベンチマークが公式に発表されました。
WHOベンチマークとは、WHOが健康に関するテーマについて定めた基準やガイドラインであり、伝統医療と補完医療の分野について、各国のヘルスケアシステムに統合できるように作成されたものです。
各伝統医療/補完医療について、エビデンスに基づく安全で効果的な利用のために、診療と製品の安全性や、施術者のトレーニング基準と規範のガイドラインを作成しています。現在までに、伝統中国医学、アーユルヴェーダ、鍼灸、推拿、オステオパシー、ナチュロパシー、タイ古式マッサージ、ユナニ医学などのベンチマークが発行されています
アントロポゾフィー医学のWHOベンチマークは、以下のページから英語版が無料でダウンロードできます。
https://apps.who.int/iris/handle/10665/366645